喪失直後のわたし
あの時のわたしは、どうかしていたのかもしれません。
今の私には、あまり理解できないというか…
今の私だったら、そうはしないだろうなと…
そう、思うのです。
荼毘に付して、小さなお骨になった日から1週間後に
私は仕事に復帰を決意しました。
上司にはとても心配されたけど
当時は、そうしないといられなかったのです。
なぜか私は、早く仕事に戻りたいと思ってました。
夫は仕事に行くことを決め、上の子達も学校に行き始めました。
みんなが“日常”に戻っていく中で
私だけが“非日常”に取り残されるのが怖かったのだと思います。

そして何より、あの子が過ごしたこの空間で
ひとりになることを想像したら
いても立ってもいられなくなりました。
部屋の空気のすべてが思い出を呼び起こし
残酷な現実と向き合わなければならなくなる。
考えただけで、胸が苦しくなりました。
だから、私は外に出ることを選びました。
思うに、外に出る理由はなんでも良かったのだと思います。
たまたま、仕事への復帰という道があったから。
仕事は、現実から逃げるための場所であり
どうにか生き延びるための場所でもあったのだと思います。
毎日をただ、やり過ごす
正直、復帰初日のことはあまり覚えていません。
自分の身を自宅以外の場所に置ければ
それで良かったのだと思います。
あのときに、自分が何を感じていたのか、どう考えていたのか
思い出そうとしても…あまり。

きっと、心が鈍くなるよう麻酔をかけていたのだと思います。
平常を装っていれば
誰も苦しみや悲しみに言及してこない。
触れては来ない。
そうやって
ただただ、毎日をやり過ごしました。
職場に戻っても、ただそこに身を置きに行っているだけですから
心はそう簡単に切り替えられませんでした。
あの子と同じくらいの歳の子を見る度に
胸が締め付けられるような感覚。
じわじわと湧き出てくる涙。
「今じゃない、今じゃないぞ涙…」と
自分に言い聞かせる毎日でした。
そうやって、トイレでこっそり泣く日が続きました。
薄情だなと思う自分もいたのです。
あの子のお骨は家に独りぼっち…
それでも私は仕事に行くの?
そう自分に問いかけることもしたのですが
それでも、1人で家にいるほうが辛かったので
とにかく仕事に行くことを続けようと思いました。
私を救ってくれた「いつもどおり」
あのときは、「いつもどおり」が
実は一番の支えだったのかもしれません。
あの子がいなくなったという現実を突きつけるような
「非日常」は感じたくなかったのだと思います。
何よりもありがたかったのは
職場のみんなが「いつもどおり」に接してくれたこと。
特別な言葉を掛けるでもなく
変に気を遣うでもなく
いつも通りに私と仕事をしてくれた。
その流れに自分が乗れていると感じた瞬間に
少しだけホッとしてる自分がいました。
悲しみを消すことはできないけれど
日常を変わらずに送ることで、少しずつ
自分を取り戻そうとしていました。
現実逃避=自分を守る
今思えば、あれは完全なる「現実逃避」でした。
そう、現実から必死に目を背けました。
現実を直視することができませんでした。
でも、その“逃げ”があったから
今こうして、落ち着いて呼吸することができています。
今でも、あの子と同じ歳の子を見れば
やっぱり胸がチクッとすることもあるのだけど
昔よりは笑って接することが出来ている気がします。
そしてそんな自分を静かに
受け入れることも出来ている気がします。

あの頃の私は、心が壊れないように
無意識のうちに「ラクに呼吸出来るほう」を選んでいたのだと思います。
仕事に戻ることは、逃げだったかもしれないけど
自分を守るための選択肢だったのだと思います。
無意識にしてきたことだけれど
あのときはそれが、正解か間違いか
それさえも分からなかったけれど
今は
「あぁ、あれで良かったのかな」って
思えたりするのです。
何を選んだとしても間違ってない
もし同じように
大切な人を失って
仕事にいつ戻ろうか、迷っている人がいたら
焦らなくてもいいし
無理に立ち止まらなくてもいいと思うのです。
動くことも、止まることも
どちらも間違いではないと思うのです。
そうすることで、誰かが
正解だの間違いだの、言われることも違うと思うのです。
どんな選択をしても
それが“今の自分がラクに息できる方法”なら
それでいいのだと思うのです。

私はあのとき
何が正解かわからず
がむしゃらに仕事に復帰しました。
そうやって、どうにか生き延びてきました。
今の私には、あの時の自分を完全に理解することは出来ませんが
(今の私なら、ゆっくり休む時間をもらうかもしれない…)
それでも、あの頃の私がそうするしかなかったことだけは
今ならちょっと、わかる気がします。
少し時間が―――
年月が経ったこと感じさせる
私の中の変化です。

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